岐路に立つグローバリゼーション―――戦後国際貿易体制の問題点―――

日時:2019年12月14日(土) 午後2時〜5時

場所:西南コミュニティセンター2階会議室

(西南学院大学キャンパスの最東南側の建物)

〒814−8511 福岡市早良区西新6丁目2−92

電話:092−823−3952(地下鉄西新駅3番出口、徒歩数分)

テーマ:戦後世界貿易システムの形成・展開・変貌

講師:山本和人さん(やまもとかずと、福岡大学商学部教授)

1955年1月生まれ。1983年3月同志社大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。同4月福岡大学商学部講師。1991年9月同教授、現在に至る。博士(経済学)(2000年、東北大学)。著書:『戦後世界貿易秩序の形成――英米の協調と角逐――』ミネルヴァ書房、1999年。『多国間通商協定GATTの誕生プロセス――戦後世界貿易システム成立史研究――』ミネルヴァ書房、2012年(増補版、2019年)。共編著:『世界経済論――岐路に立つグローバリゼーション――』ミネルヴァ書房、2019年。共訳:ロバート・ソロモン『国際通貨制度研究 1945‐1987年』千倉書房、1990年。

報告要旨:2008年の「リーマン・ショック」(正式には2008~09年世界金融・経済危機)以降、世界経済には、格差のさらなる拡大、私的・公的債務の急増、米中貿易・経済摩擦の激化やBREXITが相次いで持ち上がり、こうした不安定な経済状況が政治に跳ね返り、ポピュリズムや極右勢力の台頭などを招いている。その根源はあきらかに1980年代から本格化した新自由主義的グローバリゼーションにあると考えている。しかしここにきて新自由主義的グローバリゼーションを支持してきた欧米の主要な経済・政治学者の中には、その欠陥に気付いたものが何人かいる。例えば直近では、『フィナンシャル・タイムズ』(2019年9月18日)が、同紙の第1面全部を割き、‘CAPITALISM. TIME FOR A RESET’というセンセーショナルな大見出しを掲載した。その具体的内容を執筆した主幹のマーチン・ウルフ氏は、1980年代からとられてきた政策を変革しなければ、資本主義システム自体が崩壊すると警告を発している(Financial Times, Wednesday 18 Sept, 2019,p.7)。

翻って、我が国においては、管見する限り、こうした反省・自省はほとんど見られない。私の専門領域においても、自由貿易や資本の移動(グローバリゼーション)を一層推し進めることと、それを保障する広範で厳格な多国間ルールを新たに作り出すことこそが日本と世界経済を成長と安定の軌道に乗せる処方箋であると主張する論者が主流を占め、彼らの論文が学会誌を占拠している状況にある。

今回の報告は、私の専門領域(世界貿易システムに関する史的研究)から、現在のグローバリズムを考えることにある。とくに2008‐9年世界金融・経済危機以降,転換点にある世界経済(グローバリゼーション)の行方や在りかたを探る手掛かりを提供できればと考えている。

報告は、第2次大戦後の世界経済システムの形成、いわゆるIMF・GATT体制の成立過程を、これまで研究が手薄であったGATT(関税と貿易に関する一般協定)を対象にして、その協定発足に至る過程を明らかにし、GATT(1980年代初頭までの世界貿易システム)の本質に迫る。次に1980年代、まさに新自由主義的グローバリゼーションが世界を席巻していく只中で、GATTが書き換えられ、さらに大きく加筆されて国際機関WTO(世界貿易機関)が成立したことに注目する。WTOはGATTを発展的に解消し、受け継いだものと一般的に理解されている。それに対して、私はとくにGATTとWTOの作成・設計に携わった経済学者や国際経済法学者たちの思想に焦点を当てることで、二つの「機関」の相違点を示すことにしたい。つまり「GATT型多国間主義」と「WTO型多国間主義」の違いについてである。

WTOの成立後、20年以上経つが、WTOはその創設時に掲げた目的を進めることができず、機能不全に陥っている(2001年に立ち上げられたGATT創設以来数えて第9回目の多国間貿易交渉〔ドーハ・ラウンド〕は、決裂したままで、ドーハはすでに終わったとする論者もいる)。

以上を踏まえ、最後に、戦後新たに打ち立てられた多国間主義(Multilateralism)がWTOの機能停止によって、崩壊の危機に瀕している中、今後の貿易システムの再構築に関する直近の議論を紹介し(参考文献④、⑤—1~4)、それに対する私見を述べることにしたい。

参考文献:

拙著『戦後世界貿易秩序の形成――英米の協調と角逐――』ミネルヴァ書房1999年。

②拙著『多国間通商協定GATTの誕生プロセス〔増補版〕――戦後世界貿易システム成立史研究――』ミネルヴァ書房、2019年。

③共編著『世界経済論――岐路に立つグローバリゼーション――』ミネルヴァ書房、2019年。

④Slobodian,Quinn(2018), Globalists――The End of Empire and the Birth of Neoliberalism, Harvard University Press.

⑤―1 Rodrik,Dani(2019), Globalization’s Wrong Turn――How It Hurt America, Foreign Affairs,Vol.98,No.4

⑤―2 ――,――(2018),Global trade needs rules that adapt to economic diversity, Financial Times, Monday 6,August.

⑤―3 ――,――(2016),  Rebel with a Cause, Financial & Development, June.

⑤ー4――,――(2018), Straight Talk on Trade ――Ideas for a Sane World Economy, Princeton University Press.(岩本正明訳〔2019〕 『貿易戦争の政治経済学――資本主義を再構築する』白水社)

参加費:無料(会の趣旨に共感される方はどなたでも参加できます)。

終了後、近くの居酒屋 (「じゃがいも弐番館」)で講師を囲む懇親会を予定しています。

主催:福岡オルターナティブ研究会、FNA(エフナ・ADB福岡NGOフォーラム)

資料準備の都合上、参加を希望される方は事前にご連絡ください。

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