志民社会学習会:自然における人間のあり方―――生物的防除の考え方―――
日時:2020年3月14日(土) 午後2時〜5時
場所:西南コミュニティセンター2階会議室
(西南学院大学東キャンパスの最東南側の建物)
〒814−8511 福岡市早良区西新6丁目2−92
電話:092−823−3952(地下鉄西新駅3番出口、徒歩数分)
テーマ:害虫の生物的防除―天敵の有効性とその限界―
講師紹介:村上陽三さん(むらかみようぞう、九州大学名誉教授)
1934年3月生まれ。1961年3月九州大学大学院農学研究科博士課程単位取得退学。九州大学農学部助手、農林省農業技術研究所園芸部(のちに農林省園芸試験場)技官を経て、1967年10月九州大学農学部附属生物的防除研究施設助教授。1989年同教授。1997年3月同定年退職。九州大学名誉教授。農学博士(1961年、九州大学)。
著書:『作物保護の新段階―その生物学的アプローチー』農林水産技術情報協会1980年(共著)。『昆虫学最近の進歩』(石井象二郎編)東大出版会1981年(共著)。『害虫の天敵』ニュー・サイエンス社1982年。『天敵の生態学』(桐谷圭治・志賀正和編)東海大学出版会1990年(共著)。「日本原色虫えい図鑑」(湯川淳一・桝田長編)全国農村教育協会1996年(共著)。『クリタマバチの天敵―生物的防除へのアプローチ』九州大学出版会1997年。
報告要旨:害虫防除というと殺虫剤や農薬を連想するが、害虫を防除するには実はいろいろな方法がある(殺虫剤を用いる化学的防除、天敵を用いる生物的防除、物理的障壁や光を用いる物理的防除、栽培環境や栽培時期を調整したり抵抗性品種を用いる耕種的防除、不妊虫放飼や雑種不妊性を利用する遺伝的防除など)。これらのうち、私が専門とする生物的防除について説明したい。
害虫の生物的防除には、大別して三つの方法がある。(1)導入天敵の永続的利用、(2)天敵の周期的放飼、(3)環境操作による天敵の効果増強、である。
(1)導入天敵の永続的利用とは、伝統的生物的防除または古典的生物的防除とも呼ばれ、ある地域に従来分布していなかった天敵を別の地域(主として対象害虫の原産地)から導入して放飼し、そこに定着させることによって永続的な効果を期待する。この方
法は極めて有効で、我が国では、イセリヤカイガラムシを含む15種の害虫に対して26種の天敵が導入され、そのうち6種の害虫で成功が認められた。その中でも最近の成功例として知られる、私自身が深く関与したクリタマバチでの事例について述べる。
(2)天敵の周期的放飼とは、室内(天敵工場)で大量生産された天敵を周期的に野外放飼するもので、接種的放飼と大量放飼の二つのタイプがある。前者は放飼された天敵の次世代以降の効果に期待し、後者は放飼世代そのものの効果に期待する。我が国では、1970年から96年までの間に寄生蜂、捕食性ダニ、天敵微生物(ウイルス、細菌、糸状菌)、線虫など7種の天敵が農薬として登録された。私は、我が国で最初に農薬として登録された寄生蜂剤「クワコナコバチ」の研究に関わったことがあり、その内容と問題点について述べる。
最後に(3)環境操作について、具体的方法としては、天敵に対する食物補給、代替寄主の提供、天敵の隠れ場所の提供、害虫の共生アリ駆除、カイロモンの利用、化学的防除その他の防除手段との両立である。
各種防除手段を互いにその矛盾を最小限に抑えて、害虫密度を経済的被害以下の水準に管理していくことが、これからの害虫防除の基本である。
参考文献:
1 P.DeBach, ed. Biological Control of Insect Pests and Weeds, London,UK:Chapman and Hall Ltd., 1964.
2 村上陽三 『クリタマバチの天敵―生物的防除へのアプローチー』九州大学出版会1997年。
参加費:無料(会の趣旨に共感される方はどなたでも参加できます)。
主催:福岡オルターナティブ研究会、FNA(エフナ・ADB福岡NGOフォーラム)
資料準備の都合上、参加を希望される方は事前にFNA(fna@minos.ocn.ne.jp)にご連絡ください。
終了後、近くの居酒屋(「じゃがいも弐番館」)で講師を囲む懇親会を行います。