第30回オルターナティブ研究会

志民社会学習会 「EUはどこへ行くのか?」

日時:2016年9月24日(土)午後2〜5時

場所:西南コミュニティセンター(西南学院大学キャンパスの最東南側)

   2階プロジェクトルーム

    〒814−8511 福岡市早良区西新6丁目2−92

   電話092-823-3952 (地下鉄西新駅3番出口から海側に徒歩数分)

テーマ:ギリシャ危機と欧州民主主義

講師: 尾上修悟さん(おのえしゅうご、西南学院大学経済学部教授、国際金融論)

        一橋大学大学院社会学研究科博士課程終了。経済学博士。

2000年と20004年に、パリのシアンス・ポリティークにて客員研究員。

研究テーマは欧州の金融・経済。著書に『フランスとEUの金融ガヴァナンス』ミネルヴァ書房、

2012年。『欧州財政統合論』ミネルヴァ書房、2014年。編著書に『新版国際金融論』ミネルヴァ書房、

2003年。訳書にアメリ・アルティ著『連帯金融の世界』ミネルヴァ書房、2016年。

参加費:無料(会の趣旨に共感される方はどなたでも参加できます)。

主催:福岡オルターナティブ研究会、FNA(エフナ)

 資料準備の都合上、事前に参加お申し込みをいただけると助かります。

 連絡先 FNA(エフナ) : fna@minos.ocn.ne.jp

報告要旨:ギリシャは古典古代から今日まで悲劇をくり返している。その間にプロメテウスが現れることはなかった。今やギリシャは戦後最も危機的な状況にある。その経済と社会は完全に破綻した。一体、どうしてギリシャを救えないのか、あるいは救おうとしないのか。この点は人道的観点からも問われて然るべきである。

 そもそもギリシャは、1974年の軍事独裁政権の打破以来、欧州で民主主義の星と崇められた。周辺部諸国はギリシャを目標としたのである。このことは、ギリシャのEUとユーロへの加盟によって一層強まった。しかし今日、ギリシャは深刻な国家債務危機に見舞われ、そこから脱け出せないでいる。しかもギリシャは、欧州からの金融支援と引換えに緊縮策を強いられ、市民生活は悪化の一途を辿る。昨年初めに反緊縮を掲げて勝利した急進左派のツィプラス政権は、欧州の圧力の下で1年も経たずに政策転換し、より厳しい緊縮策の実施を余儀なくされている。このギリシャ危機はもはや、経済的・社会的危機を越えて民主主義の危機の様相さえ示す。

 本報告では、こうしたギリシャ危機の持つ意味を考えながら、将来の欧州統合のあり方を探ることにしたい。その際にとくに注目するのは、昨年7月に行われたギリシャの緊縮策をめぐるレファレンダムとその後の経緯である。レファレンダムは、れこそ民主主義の度合を測るリトマス紙の役を担う。それを自由に行い、かつその結果を尊重することが民主主義の証となる。ところが、ギリシャの国民は反緊縮を選択したにも拘らず、それは無残にも欧州によって破棄された。それどころか、ドイツを中心にギリシャのユーロ圏離脱(Grexit)さえ唱えられた。結局ギリシャは欧州に完全に屈服して、より一層の緊縮策を条件に第3次金融支援を受ける羽目に陥る。ギリシャの人々は絶望し、もはや政治家に一切信頼を寄せなくなった。そうした思いは、ギリシャに押し寄せる難民とそれに対する欧州の政策を前にしてより強まったのである。今やギリシャ市民の欧州とユーロへの期待は急速に失われつつある。

 なぜ欧州はこうした事態にギリシャを追い込んだのか。そこには数多くの要因が見出せる。欧州が新自由主義の信奉の下に社会問題を無視したこと、ドイツとフランスを軸とした大国主義の下に圧制的な指令が行われたこと、財政統合と政治統合を考えることなしに通貨統合を先行させたことなど、枚挙にいとまがない。では、全く展望が見られないかと言えばそうではない。レファレンダムで「ノー」のキャンペーンを主導したギリシャの若者は、今後「ノー・ジェネレーション」として大きな役割を担うに違いない。かれらを中心に民衆に根ざした社会運動が、汎欧州的な広がりを持つことによって真の欧州統合に向けた道が開けるかもしれない。我々はそのプロセスを意思のオプティミズムをもって見守る必要がある。

参考文献:

Badiou, A., et al., Le symtôma grec, Ligne, 2014.

Burgi, N., La grande régression, Le bord de l’eau, 2014.

Lafay, G., dir., Grèce et euro : quell avenir ? , L’Harmattan, 2015.

尾上修悟「ギリシャの債務危機とツィプラス政権の成立」西南学院大学経済学論集、第50巻第3号。

尾上修悟「ギリシャと債権団の金融支援交渉」同上 第51巻第1・2号合併号。

終了後、近くの居酒屋で講師とコメンテーターを囲む懇親会を予定(当日受付)

チラシ(PDF)オルターナティブ研究会30

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